「……チッ!またあんな凶器で殴られちゃたまんねぇや」

ナルセがブツブツ言いながら良子の横を通過した。

(フンッ!)

殴りたかったが、殴ってはいない。

ナルセには椅子を投げただけである。

しかも当たらなかった。

その上、先に手を出したのはナルセである。

良子はまたプールでの一件を思い出してふと疑問にぶつかる。

なんで玉置のパンチは当たらなかったのだろう?

当たってたら、このアホはこんな軽口叩けなかったかもしれないのに。

(残念過ぎる……)

玉置の調子が悪かったのか?

(何にしても残念過ぎだよぅ!)

あの晩部屋に飛び込んできた父の顔を見て反省した事を、まるで忘れている良子である。