「ママ!ジャ、ジャガーだ!ジャガーがいるぅ~!」

遠くで男の子が良子を指さす。

母親らしき女性は

「指さしちゃダメでしょ」

と諭した。

そこは『ジャガーじゃないわよ。キューティー鈴木よ』と言って貰いたかったな……と震える指を見ながら良子は思った。


足元で『うーん。……いてぇ──』とモゾモゾ動き出した灰色のキャップ。

恐る恐るキャップの下の顔を覗き込む。

「玉置君……」

「いってぇ……」

玉置は後頭部を擦りながら良子を見上げると、ニッと口角を僅かに上げた。

(良かったぁ……)

口角を上げた玉置に良子は安堵のため息をついた。