あの日は五月晴れの汗ばむ陽気で。

放課後、暑さを避けるように図書館で読書をした良子が一人で下駄箱に向かうと、ニッコリ笑う葉月が良子の肩を叩いた。

「相澤さん、ちょっといい?」

「……何?」

「私、N大の推薦狙ってるの」

「あ……。へ、へぇ。そうなんだ」

「……この意味分かる?分かるよね?」

進路相談ではなさそうだ。

「……さぁ?よく分かんないな」

「……他の大学の推薦枠だってあるんだからさ。そういう事だから、よろしくね」

首を傾げる良子に葉月は、完璧に作られた無邪気な笑顔を向けた。

それは笑顔なのに目は笑っていなくて

完璧に無邪気な表情なのに邪気を匂わす瞳。

肩に置かれた冷たい手と、その瞳に良子は何も言えなかった。

「じゃ、気をつけてね」

急に葉月はいつも葉月になり、軽やかに制服のスカートをひるがえした。

(……やな女)

靴を履き替えた良子は、木陰で帰り際の英会話の先生と談笑する葉月を睨んだ。