上手く床に足がつかなかったら良子は溺れる可能性大なわけで。

スライダーからはかなりの勢いで水に放り出されるわけで。

溺れなくても、水を飲んでしまう事は良子にはほぼ確定事項。

(え?ちょっと待って。……水、飲んじゃう……?)

エンジンのかかり始めた良子の脳に『スッキリ』と言った玉置の声が蘇る。

(ぐぇぇ!!絶対にやだ!)

何が何でも避けたい事態がまた一つ増えてしまった。


どう考えても死にたくはない。

ついでに飲みたくもない。

(あぁ、もう!!ええい!!)

命を危険にさらしてまで張る意地なんてあいにく持ち合わせていない。

そのうえ相手は所詮ひと夏だけの泣き虫ヤンキー。

来年になったらお互いにこんな事忘れてるハズ。

(よしッ!)

良子は立ち止まるとクルッと振り返った。

玉置とビーちゃんは数メール離れたプールサイドに立っている。

良子は深く息を吸い込んだ。

「た、玉置君ッ!プールはどの位の深さだったぁ?私ッ、実は游げな……あぶなぁーい!!」

その瞬間

キョトンと良子を見つめる玉置の横で、よそ見をしながら小走りできた小学生位の男の子がビーちゃんにぶつかった。