◇ ◆ ◇
『──嫌なのかい…?』
泣きじゃくる幼いうららを、祖母のヘレンが困った顔をして見つめていた。
ヘレンを困らせたいわけじゃなかった。
だけど胸を占める哀しみは溢れて出て。
あの頃のうららには、止められなかった。
『…だって…他のこには、みえないって…わからないって。みんな、わたしのこと、へんだって…!』
『うらら…物事にはすべて、意味があるんだよ』
『そんなのしらない…っ わたしはみんなと、いっしょがいい…!』
祖母譲りの色素の薄いクセの目立つ髪と青いその瞳が、余計にうららを〝普通〟から遠ざけていた。
いつも周りに馴染めなかった。
いつもひとりだった。
ひとりぼっちはさみしかった。
人と違うということは、受け容れられないということは、ひとりだという哀しみは。
まだ子供だったうららには耐え難い痛みだったのだ。
そして容姿だけでなくうららは、普通の人とは違うものを持っていた。
──今ならわかる。おばあちゃんが本当に魔女だったというのなら…わたしがその血を、色濃く継いでいるというのなら──。これは、この力は、紛れもなくおばあちゃんから受け継いだもの。
幼い頃からうららには、不思議に思っていたことがある。
うららには探し物や探し人がどこに居るのか、なぜかピタリと確信を持って当てることができた。
〝みえる〟、〝わかる〟…それは他人には理解してもらえないけれど、うららの中で確かに在る事実。
時折他人には見えないものを見て、それ故に迷子になることも多かった。
未熟なうららはそれを扱いきることができなかったのだ。
現実とは別の世界に迷い込んだうららを迎えに来てくれたのは、いつもヘレンだった。
だけどそんな自分がこわくてイヤで──いつも泣いていた。
見えてしまうナニかに、見えないナニかに怯えながら。
そんなうららに見兼ねたヘレンが、気休めになればとレンズの厚いメガネをくれたのだ。
それからは不思議とそれらの事象は息を潜め、仮初の平穏を手に入れた。
それでもうららが誰かとかかわり合えることは、無かったのだけれど。