それからかかしはくるりと軽快に体をまわし、視線をリオの隣りのうららに向けた。うららがびくりと肩を震わせて、思わずリオの手を握る。
『…うらら。今の君なら、きっと大丈夫。帰りたい場所を見失わなければ、〝鍵〟はきっと見つかるはず』
「……か、鍵…?」
『だけど、気をつけて。物語の歯車は少しずつだけど確実に、ずれ始めている。生まれた〝歪み〟は物語を狂わせるのに十分だ。そしてそれは、ボクたち物語の住人にも影響を及ぼす〝歪み〟…その影響はやがて君たちへも降りかかるだろう』
「物語の…歪み…?」
『そう。〝夢みる王子〟がボクたちに命を吹き込み、そしてその膨大な魔力故に力を得た住人も居る。一番最初の歪みは、君たちがここに来た時既に生じていた。
…物語のはじめ、命を落とすはずだった〝東のわるい魔女〟は〝夢みる王子〟から得た力で先を視、危険を回避した。今もまだこの世界に存在する。そして君が持っていた〝あるもの〟を──狙っている』
「あるもの、って…?」
『…それは、ボクの口からは言えない。ボクたちはこの世界の決まりを、決して破れないから…
だけど、魔女たちが…力をつけた魔女たちは、この世界の規律を乱そうとしている。うらら、気をつけて。この世界と君は、つよく繋がっている。それを決して忘れないで。
きみという存在を、ボク達は誰よりも強く、想っているから──』