「…とりあえず、今アオ先輩たちが使えそうなもの仕分けてくれて、休める場所も作ってくれてるよ」

「……うん…」


「うらら…」


気の無い相槌を返すうららに、ソラの心配そうな瞳が一層陰る。

それから膝の上で組んでいたうららの手を、そっと右手で包みこんだ。
その温もりにひかれるように、ぽつりとうららが胸の内を零す。


「ソラ、わたし…、思い出せなくて…」

「うん、だけどうらら。僕が知っているうららの家は…うららとおばあさんが暮らしていた家は、あの家じゃないよ」


ソラがうららを見つめたまま、ハッキリとそれを口にする。
うららの不安を振り払うように。

うららの中に残る記憶に、やはりきちんとカタチを持った〝うららの家〟は無かった。
思い出だそうとしても、思い出せなかったのだ。

うららが自分の持っている記憶の希薄さに驚いたのはついさっき。
そしてソラにそれを訊いてしまったのも…。 

本当はあまりソラの記憶に頼りたくない。
そう思っていた。

だけど、ここに自分の家があるなんてどうしても受け容れ難くて。
結局ソラの記憶にすがった情けない自分が、たまらなくイヤだった。