『──うらら、やっと、会えた…君にずっと、会いたかった』
聞こえないはずの声に、うららはゆっくりと、顔を上げた。
かかしの声に反応を示すように。
瞬後、目の前のうららの表情がみるみる引きつってゆく。
「しゃ、しゃべ…っ」
「…うーちゃん、見えるの?」
「え、あ…! そうだ、さっきまでそこに何もなか…っ」
「ありゃー」
どういう理由か分からないけれど、あの、触れた直後。
うららの目にも、かかしの姿が映ったようだった。
リオは試しにとソラと握手してみたけれど、やはりソラにかかしの姿は見えず、声は聞こえなかった。
かかしは、うららに向かって言った。
『畑の向こうにある〝ドロシーの家〟は、うらら、君の好きに使うといい』
「…で、でも、人の家でしょう…? とりあえず今夜だけお借りできれば、十分です…」
『ボクはずっと、このとうもろこし畑とあの家を見守ってきたんだ。あの家は、君の家だよ』
かかしの意味深な言葉にうららの瞳が戸惑いに揺れるのがわかった。
北の魔女が言っていた言葉を、ふいに思い出す。
〝この絵本は、あなたの為に作られたものだから〟
うららにしか見えない道に、うららを待っていたというかかし。
うららがここに来たのは、もはや必然と言えるだろう。
ただ布に描かれているだけのかかしの顔は、全く変化しない。
なのにその声には、嬉しさが滲んでいた。
そんな風に、リオには聞こえた。