さっき思い出したヘレンの記憶の片隅に、ヘレンが作ったひとつの絵本があった。
それは絵本として世に出版されることはなかった、うららだけが知っている絵本。
この3人は、なんとなくそのキャラクター達に似ている気がした。
博識で冷たいアオ、力は強いけれど怒りんぼのレオ、気ままで寝ぼすけのリオ――
ぬいぐるみとロボットだった彼らがおもちゃ箱から抜け出して、宝物を探しに行くお話。
うららはその絵本が、そのキャラクター達が大好きだった。
なぜだかわからないけれど、なんとなくそれを、思い出したのだ。
それぞれの名前を口にして、あまりの無反応さにちろりと薄目を開けて、うららが3人の様子を伺うと。
3人とも互いに無言で見合いながら、それぞれなんとも複雑そうな顔をしていた。
「まぁ、名前なんてどーでもいいけど」
「不便がなければな。名前なんてただの呼称であって特にこだわりは」
「思ったよりもいい名前つけてもらえてよかった」
とりあえず、受け止めてもらえたらしい。
また文句を言われたり怒鳴られなかったことに、うららはほっと胸を撫でおろす。
「じゃあうーちゃん、行こっか!」
言いながら背中を押され、改めて黄色い道の上に立つ。
先は見えない、どこまでも続いていそうな道。
奇妙な旅の、出発点。
「――大丈夫」
わずかに躊躇するその隣りで、ソラがやさしくうららの手を自らの手で包んでくれた。
笑ってくれる、うららの為に。
「なにがあっても、うららは絶対に…僕が守るよ」
――…わたしはソラを、思い出したい。取り戻したい。
それが今のうららにとって、確かなことだった。
それを見失わなければ、きっと。
どこまでも行ける気がした。
ソラの笑顔がうららの背をそっと押してくれる。
たとえこの先に、なにが待っていようとも。