「おはよう、お姫さま」
「……ソ、ラ…?」
そこに居たのは紛れも無く、絵本の世界で一緒に旅をした〝ソラ〟の姿。
ソラが、そこに居た。
「僕は一時だけ、彼に姿を貸してあげたんだ。そしてずっと、君たちを見守っていたよ。ようやく逢えたね…ここで」
言いながら胸元から何かを取出し、戸惑ううららの手をとってそこに乗せる。
わずかな重みに彼の温もりが馴染んだそれは、あの世界で…絵本の世界でソラに預けていた、〝鍵〟だった。
ソラが倒れたあの時、お守りにと渡したもの。
「僕は、高宮空。ちょっぴり魔力の強いフツーの男子高生、かな?」
「まさか…あなた…」
――この人がまさか、夢みる王子…?
目を瞠るうららに、空は楽しそうに笑った。
「さぁ、なんだっていいんじゃない? 大切なのは真実よりも、今ここに居るということさ」
姿形は一緒でも、うららの知っている〝ソラ〟とは確かに違う。
その様子がなんだか可笑しくて、思わずくすりと口元が緩んだ。
強張っていた体から少しだけ力が抜けていく。
「さて、まずは挨拶からかな」
楽しそうにその王子さまは笑う。
きらきら日の光が降り注いで、まるで輝くのは今なんだと告げるようだった。
うららは初めてこの教室で、誰かと向かい合っている。
そして名前を、交わそうとしている。
手も心臓も震える。
だけどきっと今が、そうなんだ。
――一歩、踏み出す勇気を──ソラ…
「…香月、うららです。──はじめまして」
歩き出す。
ここから、この場所で。