『では、君が願うものは?』
──僕は…僕の、願いは…ずっと夢みてきた、ただひとつの願いごとは──
『──お姫さまはね、必ず王子様が迎えにきてくれるの。どんな敵からも災いからも、守ってくれるのよ。素敵でしょう? うららも、お姫さまになりたいなぁ…そしたらずっとずっと、みんなでしあわせに暮らせるもん。ね、素敵でしょう? ソラ──』
おばあさんの描いた絵本を広げながら、小さなうららが夢をみる。
お伽話に想いを馳せて、そうやって僕らは眠りにつく。
大切で愛しい、君と過ごした時間。
君の願いを、叶えてあげたかった。
君を守る〝王子さま〟に、なりたかった。
たかが犬のこの僕が、そんなこと言ったら笑われるだろうか。
それでも…それでもいい。
そして伝えたい。
僕の生涯は君と居て、光に溢れていたということを。
幸せだったということを。
僕がまぶたを伏せるその瞬間まで、痛々しいくらいに君は泣いていた。
無力だと自分を責めて、ごめんねと何度も繰り返しながら。
今もずっと泣き続ける君に…
どうしても伝えたいんだ。
『──ではその願い、叶えよう』
最期の瞬間、その声が僕を包みこんだ。
そうして気がつくと僕は、人の姿でうららの学校の屋上に居た。
ただ漠然と状況を理解するよりもはやく、その姿が視界に映った。
うららの姿が真っ青な空に吸い込まれていくその瞬間──名前を叫んだ僕の声に、君が振り返り視線を向けた。
僕の声が君に届く。
ずっとずっと、呼んでいた。
胸の内で何度も。
だけど決して届かなかった声が、いま君に――
僕の言葉が、君に。
──伝えたいことがある。
君を絶対に死なせやしない。
だから、行こう。
一緒に行こう。
君の未来を、取戻しに──
そうして僕は約束を果たせる力と、願いを糧にした時間を手に入れた。