◆ ◇ ◆
朦朧とする意識の中、不思議な声が聞こえた。
ずっと続く痛みに、身体はもう麻痺したように動かない。
死を覚悟した、その時だった。
『──君の、願いごとは?』
――…だれ?
『僕は夢を渡る者。そして願いを叶える力を持つ者。君の願いはとても強くて、どんな場所に居てもずっと僕に聞こえていた。そして僕の心を動かした。だから僕は、叶えにきた』
僕の、願い…それならきっと、ひとつだけ。
うらら…君を、ひとりにしてしまう。
それだけが心残り。
それだけが悔しくて、哀しい。
ずっと一緒に居ると約束したのに。
必ず守ると、約束したのに。
果たせなかった…守れなかった。
『生きたいの?』
…ちがう。
死は僕の変えられない運命。
それは決して曲げてはいけないと、おばあさんから教わった。
『ヘレンだろう? 僕も彼女の最期に、願いを受け取ったよ』
おばあさんが…?
おばあさんは最期まで、自分が死んだあと…そして僕が死んだあとのことを、気にかけていた。
うららがひとりになった時のことを。
おばあさんは不思議な力を持っていて、時折未来を視ることができた。
だけど決してそれを口にすることはなく、ただ、今できることを…今できる精一杯のことをして過ごしてきた。
いつか僕にもうららを守る時が来ると、おばあさんは最期に言った。
うららには聞こえない声で、そっと、僕にだけ。
その時がきたら必ずうららを守って…導いて、と。
そう約束したんだ。