もう一度ソラと視線を合わせる。
ソラはすべてをわかっているように、いつものようにただ優しく微笑んでくれた。
「…っ、ソラ、わたし…、友達を、作る…。戻ったら、まずはひとりでも…学校で…教室で…挨拶をしてみる」
「…うん」
必死に絞りだす言葉に、涙が止まらない。
どうやっても止められない。
笑ってさよならを言いたいのに。
最後くらい、ちゃんと安心させたいのに。
だけど絡んだ指がひとつずつ、ほどけてゆく。
「そして、いつか…っ いつかまた、犬を飼う…あの大きな家にひとりは、やっぱり寂しいから…! いつか、ちゃんとソラを、思い出にできたとき…いつか……!」
「…うん…僕もその未来を、ずっと見守ってるよ」
ソラは微笑んで、最後の温もりをやさしく解いた。
踏み出した一歩が、光を放つ。
身体が光に吸い寄せられ目の前の光景が滲んでいく。
ソラの向こう、視界に映るのはかつて一緒に旅した物語の住人たちと、そして──
「パパ…ママ……おばあちゃん…!」
――大切なわたしの、家族。
泣き虫で、弱くて、すぐ目を逸らして逃げ出して、カンタンに投げ出して。
受け止めること、受け容れること…できなかった。
きっとたくさん心配かけた。
だけど、最後くらい…笑うことくらい。
――できるよ。わたしにも。
「さよなら…!」
それはきっと、別れの言葉じゃない。
新しい旅立ちの言葉。
そうしてすべては光へとかえり、物語は閉じられた。