――帰れる…現実に。
やっと、戻れるんだ。
嬉しくないわけではなかったけれど、だけどあまりにもこの展開に置いてけぼりをくらって、すんなりと喜べないのも事実だった。
「……っ、う…」
「…、うーちゃん…っ だいじょうぶ…?」
抱えたリオの腕の中で身じろいだうららが、ゆっくり目を開いた。
そしてがばりと勢いよく身体を起こし、その視界にソラの姿を映した途端。
その両目から大粒の涙が零れた。
「ソ、ラ…」
「…ぜんぶ思い出したんだね、うらら。…よかった。自分の意思で、記憶を思い出してくれたこと…そして未来を選んでくれて、本当によかった…」
「………っ」
うららはふらつきながらその身体を起こし、まっすぐソラと向き合う。
ソラはその視線をうららにではなく、リオ達に向けた。
「この世界の物語は、ここで終わりを迎えます。実際の〝オズの魔法使い〟とは異なるエンディングですが…それでも僕らの長い旅は、ここまでです」
「どういうこと…? 一体何がどうなったの? この、世界は…」
「始まった物語も開いた世界も、その役目を終えすべて閉じます」
「物語が、閉じる…」
「ここがその、終わりの場所です」
ソラの言葉に導かれるように、急に胸が熱を主張する。
それはリオとアオとレオ、3人の。
そして光が大きく膨れた次の瞬間、見覚えのある姿が目の前に現れた。
『やぁ、リオ。お別れの時がきたみたいだ』
それは、ここまでリオと共に旅してきたかかしの姿。
自分の中に居ること、それから何度か言葉を交わし力を借りたことはあるけれど、こうして対峙するのはひどく久しぶりに思えた。
そしてアオとレオの前にも、今まで目に映らなかったブリキのきこりとライオンの姿が、淡い光と共にそこにあった。
ブリキのきこりはアオに向き合いその両手を取る。
『アオ…素敵な旅を、ありがとう。君たちの願いは、君たちの中にもう生まれてる』
「…俺たちの、中に…?」
金色のライオンはレオのその頬を、ぺろりと大きな舌でひと舐めした。
『レオ、君と過ごした時間を、ボクは決して、忘れない。願いは自分にしか叶えられないということを、君たちは教えてくれたんだ。──ありがとう、そして、さよなら』
「待てよ、まだオレは…っ」
それから物語の住人たちは光の軌跡を残しながら、3人にはさよならもお礼を言う暇も与えず、オズのもとへ向かう。
あまりに突然で、言葉もでなくて。
茫然とその姿を見送ることしかできなかった。
ここまでずっと、一緒に居たのに。
「…うらら、最後は君。さぁ、帰っておいで、ドロシー」