「──うらら!!」


遠くで、ソラの呼ぶ声がする。
視界の隅に映る、ソラの哀しそうに見開かれた、青くて綺麗な瞳。

憶えてる。
それはふたりのおそろい、大切な繋がり。


――ああ、わたし…ソラに名前を呼んでもらうのが、好きだった。


昔からずっとわたしの傍にあったもの。
ここに来る前も、ずっと。
そう思ってた。

だけど、違う。
…違ったんだ。


「……全部、思い出したのね」


落ちていくその意識の中、目の前の西の魔女が感情の無い瞳でうららを見据える。

西の魔女に身体ごと飛び出したうららは、抱き合うようなその格好のまま、落下する感触に目を細めた。


「…思い出したわ。わたしがどうして生きることを放棄したのか…どうしてソラのことだけを、思い出せなかったのか…その理由もぜんぶ、思い出した…」

「…なら、わかったでしょう? 現実に戻っても、ダレもいない。あなたはまた、ひとりぼっちなのよ。ここでなら…この世界でなら…アタシ達がずっと、一緒に居てあげられるわ。その為にこの本は、開かれたのだから」


今までとは打って変わったようなその声音に、うららは少しだけ笑う。
〝この本〟がそういう役割も持っていたことは、きっと事実なんだろう。


――でも、わたしは。


西の魔女の身体を抱いたままうららはふるふると首を振った。


「ひとりでも、わたしは生きていかなくちゃいけなかった…わたしは、わたしひとりだけのものではないのだから。わたしが知るすべての人の為に、わたしはどんなに辛くても、寂しくても怖くても孤独でも。逃げ出しちゃ…この命を投げ出しちゃいけなかった」