「…うらら、大丈夫…?」
ずっと隣りにいてくれたソラが、うららの顔をそっと覗き込む。
暖かな指先が、残っていた涙をやさしく拭ってくれた。
その温もりに胸が余計に痛んで涙がまた滲んだ。
思い出したヘレンの温もりが、うららに現実を伝えるようだった。
――どうして…おばあちゃんやソラの記憶なのだろう。
うららは記憶を思い出すことが少しこわいと思った。
それは、うららが投げ出してしまった悲しい記憶のようにも思えたから。
忘れたくなることだって、きっとある。
少なくともうららの中に残る記憶にあまり明るいものはなかった。
クセのある茶色く長い髪をかたくみつあみにして。
メガネをかけて、瞳の色を隠して。
なるべく人と関わらないよう、うららはひっそりと過ごしてきた。
うららの容姿はいつも、どこでも、周りに馴染めなかったから。
だけど──
「だけど、うらら」
ソラがうららの心の内をまるで読んだかのように、言葉を継ぐ。
温かな光の方へ、うららは顔を上げた。
「うららがおばあさんのことを思い出してくれて…僕は嬉しい。うららのおばあさんも、うららのことが本当にとても、大切で…大好きだったから」
だけど、いつも。
他人に馴染めずひとりで居ても、ヘレンがいてくれた。
傍でずっと、励ましてくれた。
だからうららも、ヘレンが大好きだった。
そこにはソラも、居たのだろうか。
ソラのこともちゃんと、思い出せるのだろうか。
きっとソラの記憶もこの手の平のようにあたたかい。そんな気がした。