「わかったでしょう? 戻っても、帰っても、苦しいことばかり、辛いことばっかり。意味なんかない…だってなんにも、無いんだもの! だったらずっと、ここに居ればいいわ。東の魔女が言っていたでしょう? ここはあなたの為に用意された世界。あなたがひとりにならないように、あなたの為にヘレンが用意したの。ずっと、ずぅっと、ここでみんなと暮らせばいいじゃない」
――…みんな? 皆って、誰? もうわたしに、は誰もいないのに。何も無いのに。
「あなたはヘレンの血を、そして力を色濃く継いだ。あなたが力に目醒めれば、きっとこの国も世界もぜんぶあなたのものよ、みーんな奴隷にしちゃえばいいわ! アタシが手伝ってあげる!」
――…ちがう…違う。
「…おばあちゃんは、そんな人じゃない…」
いつも明るく笑って背筋を伸ばして、前だけを見て生きていた。
優しくて強くて自慢のおばあちゃん。
わたしはおばあちゃんが、大好きだった。
わたしの誇りだったの。
「おばあちゃんが…そんな甘ったれたこと…そんな逃げ道を、残すわけない…っ」
風貌だけじゃなくてその心を。
わたしも、欲しかった。
もっとちゃんと受け継ぎたかった。
こんなに弱い心じゃなくて、まっすぐ揺ぎ無い──強い心を。