体のあちこちに冷たい感触を感じながら、ふらつく上半身をなんとか持ち上げる。
体が未だ浮遊感の中を彷徨うようで、地面についた腕に力が入らない。


「やっとお目覚めね」


自分に向けられる冷たい声に、うららはゆるりと視線を上げた。
視線の先に居たのは、至極楽しそうに笑う西の魔女だった。


「……ここ、は…」

「ここは〝真実の塔〟と呼ばれる場所の、てっぺん。今からあなたに、イイモノを見せてあげようと思って」


口元は笑っているのに、どこか笑っているようには見えない冷めた表情。
すぐ頭上には太陽が出ているのに、凍てつくような寒さにうららは身を竦ませる。

うららはまだどこかぼんやりと、コツコツと歩み寄る西の魔女を見上げた。

塔のてっぺんと言われた場所はさほど広くはなく、うららはちょうどその真ん中あたりに居た。
ぐるりと円状に囲まれた外壁は低く、すぐそこは空。
青い空の真ん中に居るような錯覚さえする。

足に力が入らず、まだ立ち上がれない。
愉しそうに西の魔女はうららの目の前まで来ると、まっすぐうららの後ろを指差した。


「あなたのすぐ後ろには、鏡があるの。これは、〝真実の鏡〟。あなたが知りたかったことすべてを、みることができるわ」

「──真実の、鏡…」


――知りたいこと…わたしの、最後の記憶…?


「さぁ、振り返って、みてみるといいわ。これが、真実。

あなたが忘れていたことよ」