◆ ◇ ◆
突然襲われた衝撃は一瞬で、だけどうららを連れ去るのには充分な時間で。
そして今度こそ本当に死ぬかもと…殺されるかもと恐怖するのに、充分なほどの余韻を残して消えた。
呼吸と同時に生きていることにアオは安堵した。
それからどっと汗が吹き出す。
押し潰されそうな圧迫感から少しずつ解放されながらも、だけど未だ風が暴れまわるように四方に飛び散り、呼吸が上手くできずに思わず咳き込んだ。
「…全員、無事か…?」
「げほ、なんとかだけどねぇ…、目の前にレオ居るけどピンピンしてるよ。バカは頑丈でいいねぇ…アオは?」
「たいした怪我はしていない」
「お前ら勝手なこと言ってんじゃねぇオレだって怪我くらいしてんだぞ!」
「元気そうで何よりだな」
砂埃で視界が奪われる中、遠くない距離に同じように咳き込む声と気配を感じる。
なんとか皆無事なようだった。
圧倒的な力と殺意を向けられて、東の魔女の時もそうだが死というものを、改めて肌で感じた。
手に残る余韻が、滲んだ汗を震わせる。
ざらりとした感触に怯む感情を押さえながら、アオは砂と埃に塗れたメガネを外し、シャツの袖で拭った。
「──大丈夫ですか…?」
砂煙の向こうにゆらりと影が揺れ、その向こうから発せられた声がアオに向けられる。
「…ソラか…?」
霞む視界にはっきりとした姿は確認できないが、その声は間違いなくソラのもの。
しかしその瞬後、メガネをかけ直したアオの視界に映ったソラの姿に、アオは思わず息を呑んだ。
ぼんやりとわずかに身体が光を発していたソラの姿は、アオよりもはるかにボロボロで、所々に血が滲んでいる。
その中でも左腕は明らかに重症で、制服は血に濃く濡れていた。
「その怪我…まさか…」
まるで先ほどの攻撃をソラが受け止めたかのような、そんな風に見えた。
でなければソラだけがここまで重症を負っている説明がつかなかった。
自分たちがほぼ無傷なのも。
わずかながら住人達の力は借りられているが、あの攻撃は明らかにその範疇を超えていた。
「アオ、ソラくん…! よかった、無事…じゃないじゃん! どーしたの?!」
「なんでお前だけそんなボロボロなんだよ…! つーかお前、光ってるぞ…?」
駆け寄ってきたリオとレオも、その光景に目を丸くする。
そんなアオたちに当の本人は別段気にする様子もなく、にこりと微笑んで。
発していた光は、役目を終えたように引いていった。
「これは、約束を対価に僕がもらった力の一部なんです。見た目ほどにダメージは受けてないので、心配しないで下さい」
「約束…?」
「…はい。…うららのおばあさんと。おばあさんの最期の時、僕も傍に居ました。そして、約束をしたんです。──うららを守ると」