バサリ!と、何かが飛翔するような羽音が耳に届くのと同時に、うららの視界は一転した。


「───!」

「うらら!?」


目を開けると視界は青く染まり、近くに居たはずのソラも先輩たちも、自分の遥か足元にいる。

腕から肩にかけて違和感を感じ視線を向けると、背中から羽の生えたサルが二匹、うららを腕から抱えあげていた。


「…い、や…、何…?! 離して…!!」

急に地面を離れた足元はひどく不安定で、気持ちまでふらつく。
恐怖で気が動転し、必死に抵抗するも、拘束は解けない。


「うーちゃんダメ、暴れると落ちちゃう…!」

「イヤそれならそれで受け止める。レオが」


「…ってオレかよやるけどよ!」

「うらら…!」


抱えられるうららのすぐ傍まで来た西の魔女が、楽しそうにその両手を空に向かって振り上げた。

心臓が早鐘を打ち、悪い予感が全身を走る。


「物語は終章へと向かってる…だけどアタシが、終わらせやしない。お姫さまは頂いていくわ。…でも、アンタ達は要らない。一生この世界で彷徨ってろと言いたいところだけど、東の魔女は油断してアンタ達にヤられたんだったわね。だったら今ここでちゃんと、始末してあげる…!」


魔女の言葉と呼応するように空気が揺らぎ、掲げた魔女の手に風が集まっていく。
得体の知れない力が渦巻いているのをすぐ傍で感じ、背筋を鋭く冷たいものが走った。

目には見えないけれどそこには確かに力が集っていた。
光も温もりも感じない、冷たい力が。


「なに、するの…やめてお願い、やめて…!」

「大丈夫ようらら…アタシがずぅっと、一緒に居てあげる…!」


甲高い笑いが轟音へ、風が耳鳴りと共に爆風へ――目を開けていられないほどの力が地面へと衝突し、残骸が遥か空へと巻き上がり、頬を掠めた。

声が、悲鳴が、すべてが空へと吸い込まれ
うららの意識はそこで途切れた。