西の魔女の言葉にソラが咄嗟にうららの手をとって、その背に庇った。
「うらら、さがって」
「ソラ、でも…っ」
西の魔女はそのままゆっくりと、視線をうららだけに向けた。
「交換条件よ、うらら。銀の靴を渡すなら、このまま見逃してあげる。それにアタシの力とその銀の靴の力なら、あなたの願いを叶えてあげられるかもしれないわ」
──銀の靴。
この世界の住人は皆、この銀の靴には力があると言う。
――だけどそんなの知らない。わたしには使えもしないし、そんなの関係ない。こ
れは大切な、おばあちゃんの靴だから…託されたものだから。カンタンに手離すことなんて、できない。
「…い、や…、嫌です…これは、渡せない…っ」
大事なものがある。
それはきっと、ひとりでは手にすることすらできなかったもの。
それをうららは、知ったから。
「それにわたしは、みんなで、帰るんです…! ひとりでなんて、絶対に嫌……!」
口にした言葉が震えても、うららは魔女から目を逸らさなかった。
今はそれぐらいしか、示せなかった。
しかしその瞬後、西の魔女の顔から笑みが消えた。
「何も覚えていないって、時にすごく楽よねうらら。見たくないもの、知りたくないもの、信じたくないものから目を逸らし続けていられるんですもの。だからそんなことが言えるのよ。だったら全部、思い出させてあげるわ…!」