「…うらら、あなたが失った記憶は、良い記憶ばかりではないかもしれない。だけど、おそれないで。…目を、そらさないで…」

北の魔女の重ねた手に、涙が零れた。
いくつもいくつも零れた。
その温かな雫は手の上を滑り落ち、やがて地面へと染み込んでゆく。


「さぁ、私の役目はここまで」


微笑んで言った北の魔女の言葉と同時に、地面が淡い光を放つ。
涙の染みが重なったその場所が、他の地面とは違う色へと変わってゆく。


「うらら、おまじないを」


導かれるように、思い出に引かれるように。
うららは靴のかかとを3回、鳴らした。

眩む光に思わず目を細める。
そこには──


「……道…?」


自分の足下から放たれる光。
黄金色のレンガの道が、緑の地平線のずっと奥まで伸びていた。


「この道の先に、あなたの記憶と彼らの願い…そしてオズが、待っています」