――おばあちゃんに教わった、おまじない…?
その瞬間、突如うららの頭の中に、懐かしい声が響いた。
『――迷子になったら、困ったことがあったら、帰り道を見失ってしまったら──』
――そうだ…おまじない。小さい頃おばあちゃんに教わったんだ。どうして忘れていたんだろう。迷子になった時、イヤなことがあった時…いつも繰り返していた、あのおまじないを。
うららが幼い頃、道に迷って帰れなくて泣いていると必ずヘレンが迎えにきてくれた。
困ったように笑いながら、抱きしめてくれた。
うららはヘレンが、大好きだった。
アメリカで生まれたヘレンの血を色濃く受け継いだうららは、周りの子とは違った髪色と瞳を生まれ持ち、周りに馴染むことができなかった。
どんなに惨めで寂しい思いをして帰ってきても、家に帰るとヘレンが居てくれた。
傍にいてくれていた。
どんな時も、ずっと──。
――そんなわたしに、おばあちゃんが遺してくれたもの…そうだ、思い出した。
思い出してしまった。
思い出したくなかった。
だけど溢れ出る記憶の波は無情だった。
熱と痛みを伴って、思い出と共に哀しみが胸を締め付ける。
――一ヶ月前。おばあちゃんが、亡くなったんだ。