「…ひとつだけ。オズとやらは、どこにいる?」


それを訊いたのは、メガネの少年だった。
北の魔女はその鋭い視線に物怖じする様子なくその視線をうららに向けた。
うららば思わず身構える。


「うららが、知っています」


北の魔女の予想外な言葉に、視線が一斉にうららへと向けられた。


「え…」


驚きと怪訝そうな視線が、痛い。
一番驚いたのはうららだった。


――そんなの、わたしは知らない。むしろ今は分からないことだらけなのに。


北の魔女は戸惑ううららの目の前に音もなく歩み寄り、そしてその手を取った。

身長差から見下ろしていた視線を合わせるようにわずかに背をかがめて、うららの顔を覗きこむ。
その瞳はどこか、哀しい色をしている気がした。


「…うらら。ここは『オズの魔法使い』の世界であって、そしてヘレンが描いた世界でもあります。あなたの為に、私達はここに居る。だからこの先どんなに困難なことがあっても、かならず、オズのもとへ。諦めないで。見失わないで…あなたなら、きっと大丈夫。それでもくじけそうになった時は…私達の存在を、思い出して」


まっすぐ北の魔女はうららの目を見て、囁くように、諭すように魔法の言葉を重ねる。


「本来ならここであなたに渡すべき〝あるもの〟は、今ここにはありません。それはずっとあなたが持っていて、そして今はあなたの記憶と共に、あなたの元へ帰るのを待っています。だから、うらら。ここからはあなたの足で、道を拓かなければ」

「道を、ひらく…?」


「ヘレンに教わったおまじないを、あなたは覚えているでしょう…?」