「彼に関して、私からはこれ以上お話しすることはできません」
あくまで微笑みを絶やさずに北の魔女は言う。
それ以上の詮索をやんわりと拒否され、見つめていた視線が彷徨う。
――〝夢みる王子〟…力を貸してくれるというのなら、きっと味方なのだろう。今
更何が出てこようと魔法の絵本の中の世界ならなんでもありな気がしたけれど…『オズの魔法使い』に、王子様なんて出てきたっけ…?
そう、思ったとき。
そこでやっと、うららの記憶から『オズの魔法使い』の内容が一体どんな内容だったのか、すっかり消えてしまっていたことに気付いた。
自分のことは分かる。
だけど自分以外のことをほとんど思い出せない。
ソラのことだって、まだ名前しか思い出せない。
両親や家族、祖母ヘレンのこと。
うららは自分以外のほとんどの記憶を、思い出せなかった。
絶望にも似た思いが胸に沸き、思わず口元を押えた。
――それが代償だというのなら、わたしは…一体なにを、願ったのだろう──