「うららちゃんは、まだやることがあるんでしょう? はやく、戻らなくちゃ」
「…やる、こと…」
「ゆいが案内できるのはここまでなの。ゆいはここから先へは、いけないから」
真っ白い空間にぽっかりとその〝入り口〟は在った。
輪郭のぼやけた、光の扉。
その扉の前でゆいちゃんが立ち止まり、顔から笑みを消した。
そしてその小さな手で、わたしの両手をぎゅっと握る。
「ゆい、ちゃんとできたでしょう? ここまでちゃんと、案内できたでしょう? だからうららちゃん、今度はゆいのお願い、きいてくれる?」
まっすぐわたしを見つめる、透明な瞳。
その小さな手は意外なほど力強かった。
笑った顔の印象が掻き消されてしまうほど、痛切さが滲む表情。
わたしはほぼ無意識にその手を握り返して。
その視線をまっすぐ受け止めた。
「わたしに、できることなら…」
「できるよ! うららちゃんにしかできないの…お兄ちゃんに…どうしても伝えたいことがあるの。だけど次にいつ会えるか、わからない。だけどゆいはどうしても今、伝えたいの。お兄ちゃんはずっとゆいの為に…ゆいの所為で自分を責めてる。ずっと、苦しんできたんだよ。ゆいもお兄ちゃんも、ずっと迷子みたいに、出口が見つからないの」
哀しそうに呟き、その大きな瞳が揺れる。
夢の中で生きるというその意味は理解できなかったけれど、ゆいちゃんはずっとここで孤独と共に在ったこと。
そしてゆいちゃんがどれだけ〝お兄ちゃん〟が大切かということだけは、繋いだ手から伝わってきた。
「だからお願い、うららちゃん。かならず戻って、お兄ちゃんに伝えて。もういいんだよ、って言ってあげて、ゆいの代わりに。ゆいは大丈夫だから、もうお兄ちゃんは、自分の道を歩いていってって。置いていかれたなんてゆい思ってない。お兄ちゃんはとても優しいから、ゆいはそれを知ってたから…さびしくて、かなしくて…お兄ちゃんをずっと、縛り付けてたの」