『大丈夫、連れていってあげる! だからはやく目を覚まして』
すぐ近く、わたしの耳元でその声は聞こえ、わたしは漸く瞼を押し上げた。
「……だ、れ…?」
「よかったぁ、目を覚ましてくれて…これ以上落ちていったら、手が届かなくなるところだった」
繋いだ手に力を込めて、声の主は嬉しそうに笑った。
自然と目線が下がるその先には、ひとりの女の子。
長くて黒い髪に黒い瞳。
それから淡い黄色のパジャマを着た、かわいらしい女の子が居た。
小学校の、低学年くらいだろうか。
でも細くて小さな体つきはもっと幼いようにも思える。
幻のように儚げな女の子。
だけど繋いだ手は確かに温かかった。
「お姉ちゃん、うららちゃんでしょう?」
その大きな瞳にしっかりとわたしを映して、女の子は自信ありげにほほ笑む。
初対面のはずの女の子の口からいきなり自分の名前が出てきたことに、驚く。
もしかして、知り合いなのだろうか。
手繰る記憶には、居ないけれど。
「わたしと…どこかで会ったことがあるの…?」
「ううん、はじめまして、だよ」
明るくはきはきと答えるその様子に、なんとなく緊張が解ける。
手を繋いだまましゃがみこみ、視線を合わせて訊ねた。
「あなたの、名前は…?」
「ゆい!」
顔を綻ばせてゆいちゃんは笑い、わたしの手を強く握った。