────空。

高く突き抜けるように青い空がある。
胸が締め付けられるような焦燥。手を伸ばそうとしたその瞬間、ぐらりと景色が輪郭を失いわたしの体が傾いた。

落ちていくそう思うのに、体は指一本動かない。
記憶の海の中、景色が、声が頬を掠める。


『──うらら。この銀の靴はずっと、母親から娘へと受け継いできたものなの。エミリーには渡せなかったけれど、今度はあなたが持っていて。もうそろそろあなたの足のサイズに合う頃だと思って、渡しておきたかったの』


銀色の布地でできた、シンプルなリボンのついた靴。
特別な靴なのだと、そう感じた。


『大丈夫よ、あなたなら。きっとこの銀の靴が、あなたの願いを叶えてくれる…導いてくれるわ』


そう言ってわたしの頬を皺だらけの手がやさしく撫ぜ、見慣れた優しい笑顔が胸を打つ。


――履いたのは、いつだった? 手にした記憶はある。そう、叶えたい願いがあった。わたしが、願ったのは───


『──だめ、お姉ちゃん…! 今はまだ、そっち側に行っちゃダメ…!』


――…だれ…?


どこからともなく降ってくる声に視界が揺れる。
落ちていくだけだったわたしの手を、誰かが握った。