『とにかく、うららを探さなきゃ…東の魔女が、そうカンタンに銀の靴を諦めるはずがない。魔女はどんなテを使ってでも、あの靴を手に入れたいはず。きっとムリヤリにでもうららの記憶を呼び覚ます気なんだ』


ライオンが重たく言い、視線を頭上に仰いだ。

谷底から見上げる空は限りなく狭く、上が一体どうなっているのかは全く分からない。
灰色の景色に目は慣れたものの、辺りがヤケに静かで胸が騒いだ。


「…でも、あいつもここに落ちたはずだろ? なんで姿が見当たらなねぇんだ…?」

『…わからない。だけど近くにいることだけは、確かだよ。姿が見えないのは、魔法で関わりを断たれたのかもしれない。ボクたちはうららがどこに居たって、ぜったい分かるから』


色褪せても光を失わないライオンのその瞳が、最初に会った時よりも強い光を放っているように思えた。

うららと絵本の住人たちとの繋がり──絆。
目に見えないはずのそれが、カタチを持ったみたいだ。


『ボクたちは、そうカンタンにうららを傷付けることなんてできないんだ。だから無事だとは思う。だけど東の魔女は、強行手段に出た。力に魅入られた者たちは、この世界の規律がジャマなんだ。だから今は大丈夫だけど、彼女達はやがて力を手に入れる為なら、うららさえも傷つけるかもしれない』