◆ ◇ ◆
『──…オ…レオ…っ! 起きてってばレオ!!』
「……っ、…い、てぇ…!」
大声で自分を呼ぶ声に、レオは瞼を無理やりこじ開けた。
次いで意識と痛みが一気に押し寄せ、思わず腕を抱える。
『大丈夫、レオ…咄嗟に服を引っ張っちゃったから、破れちゃったみたい、ゴメンね』
「あ…?! 痛てぇと思ったらおまえ腕咥えやがったな!! ビリビリじゃねぇか! マジ痛てぇし!!」
じくじくと左腕が痛む腕にそろりと視線をやると、破れたシャツの隙間からくっきり噛み跡の残った腕が覗いた。
血は出ていなかったが鬱血している。
傷痕に痛みを認識するのと同時に、ちくりと違和感が視界を掠めた。
『だって、レオが急に飛び込むから、ボクも必死だったんだよ。首根っこくわえたら死んじゃうと思ったから腕にしたんだよ、加減もしたし』
「~~~…ッ、まぁ生きてるからいいけどよ…」
ガシガシと頭をかきながら小さくなった声音に視線を向けると、すぐ傍にライオンの姿があった。
――だが。
「…ここ、ドコだよ」
『…崖から落ちた先の、谷底だけど…、どうやら魔法がかかってるみたいだ』
――…そうだ。オレは…オレと、こいつは。うららを助けようとして一緒に谷底に落ちたんだ。
視界に映る景色は確かに谷底ではあるのだが。
だけど確実に、違う。
さっき掠めた違和感の正体。
「…なんだ…ここ…」
地面も岩肌も、殆ど枯れているが僅かに残る川の水流も見上げた遠い空さえも、
すべて灰色に覆われた、光すら重たく薄暗い場所。
景色だけじゃない。
自分の体も目の前のライオンも、すべて色を奪われたように灰色に染まっていた。