痛む記憶が悲鳴を上げる。
抱えた頭は今にも割れそうで、呼吸すら上手くできない。
そんなうららの動かない身体を、突然強い力が引き寄せた。
もやがかかったように霞んでいた視界に、金色の光が差し込んだ気がした。
「随分ぺらぺら回る舌だな…そろそろいい加減にしとけよ…!」
背中に大きな温もりをを感じる。
強い熱の塊のようにすら感じる、存在感。
後ろから回された腕がうららの視界を覆い、ぶっきらぼうな声が頭の上から降ってくる。
「レオせん、ぱ…」
だけどその声も零した自分の声も、どこか遠く聞こえた。
すべてが遠い遠い出来事のように思えた。
「ふん、アンタが一番中途半端ね。認めず、受け入れず、拒むことも捨てることもできない。自分の弱さを知ろうともしない」
「……んだと」
「だから弱い人間はキライ。うらら、あなたもそう。泣いたら何かが変わるの? 欲しいものは手に入るの? あなたを守ってくれる人は、もう居ないのよ」
東の魔女の口調が重く冷たいものへと変わり、そう感じた時にはもう既に、うららは浮遊感の中に居た。
突然景色がぐらりと傾き、視界が反転する。
「うーちゃん! レオ!」
「…!」
――…あれ…いつの間にリオ先輩やアオ先輩が、あんなに遠くなったのだろう。さっきまですぐ傍に、居たはずなのに――
重い思考はなんだか的外れで、遅れてやっと自分の体が落下しているのだと認識した。
足元の地面が大きく裂け、うららの身体は谷底に吸い込まれていった。