「理解できないな」
北の魔女の答えに、不機嫌を隠さずメガネの少年が呟いた。
溜め息混じりに、冷たい視線を向けながら。
「記憶を消すというのなら、わざわざ成し遂げる意味が無いだろう」
「…意味も価値も。あなた達が望む願いの果てに、生まれるものです」
北の魔女がささやくそれは、まるで魔法の言葉のよう。
受け入れるべき標のような、そんな印象にさえ感じる。
「あの…」
躊躇がちに口を開いたのは、ソラだった。
「僕とうららは、互いの名前を認識しています。それにはなにか、理由があるんですか…?」
それはうららも気になっていた。
疑問に思ってはいたけれど口には出せなったことを、ソラが代わりに口にしてくれたのだ。
それと同時に、3人の少年たちと北の魔女の視線がうらら達ふたりに注がれる。
「それは、うらら…この絵本は、あなたの為に作られたものだから。あなたの〝願い〟が誰よりも一番強く、大きかった。だから名前ではなく〝記憶の一部〟が代償となり、この世界にそれは、散らばりました。
うらら、あなたはこの世界で記憶を取り戻すと共に、あなたの願いごとを探さなければいけません」