東の魔女のその言葉と共に、目の前にあったソラの体がふわりと高く浮き上がった。
そして再びうららの姿は東の魔女の目に晒されていた。
「ソラ!」
「こいつらはホントに信用できるの? あなたを守ってくれるの? 所詮人間は自分が一番大事。だけど自分で自分の身を守るには、力が必要でしょう? だからヘレンは、あなたにあの靴を、そして絵本を残した。あなたは弱くて泣き虫で嫌なモノからすぐに逃げ出す、とっても頼りない女の子だったの。そんなあなたの為に、ヘレンはありったけの魔力を絵本とあの靴に込めた。魔力を失くしたヘレンはただの人間も同然で、あっさり死んでしまったわ。可哀想にヘレンはあなたを守る為に死んだのよ」
「聞いちゃダメだ、うらら…!」
「ウルサイわ、人間の分際でジャマするんじゃないわよ」
東の魔女は冷めた声音と視線をソラに向けた次の瞬間、ソラの体が地面へ投げ捨てられるように落下し、意図してそのスピードは加速していった。
「…! ソラ!!」
「そう、ソラっていうの。まだ彼の記憶を取り戻していないんでしょう? アタシには分かるわ、彼は嘘をついてる。うらら、あなた騙されてるのよ。ウソつきには罰を与えなきゃ」
「……!」
――…わからない。わたしにはまだ、なにもわからないの。
だけど声が、言葉が、光景が、感情が──これまでの記憶が溢れて。
いっぺんに頭の中に叩きつけられるように入ってきて、思考がぐちゃぐちゃになる。
――ソラがわたしに、嘘をついている? ソラがわたしを、騙している──?
信じたくない。
信じられない。
だけどうららは確かに、ソラのことまだぜんぜん思い出せなかった。
何を信じればいいのかもうわからない。だけど。
「──ソラ…!」
反射的にうららは、ソラが落ちてくる場所へと駆け出していた。
たぶんそれが今のうららにとっての、真実だった。
今のうららにとって確かなこと。
――ソラが居なくなるのだけは、ぜったいに、嫌──!
「…バカね、うらら。だから人間は嫌いなのよ」