その赤く大きな瞳にうらら達を映して、東の魔女は楽しそうに笑っていた。


──東の、悪い魔女。


その名前をもう何度か耳にしている。
良い印象はない。
かかしもブリキのきこりも、同じことを言っていた。

〝気をつけて〟

このタイミングで今ここで現れたことに、不安で胸がざわざわと騒ぐ。
緊張で嫌な汗が滲み、警告にも似た鼓動の早鐘が次第に耳の奥でそれを主張した。


──危険だ、この人は。


「ふふ、そんなにこわがらないで。別に取って食ったりしないわ。アタシの目的は、ただひとつ。ソレさえ手に入れば、危害は加えない」

「…目的?」


「──そう。ソレは本来アタシの手にあるべきもので、だけど今はあなたの所にあるの、うらら。ねぇ、記憶はまだ、…思い出せないのね」


見下ろす魔女の目がうっすら細められ、うららを視界に捉えたまま上空からゆっくり下りてくる。

すぐ後ろで追いついてきていた2頭の獣達が唸り声を発したけれど、魔女のかざした手にピタリとそれは止んだ。


「ねぇ、うらら…アタシに返してくれないかしら。どんなに魔法を駆使しても、ソレの在り処がアタシには分からなかった。アイツの魔法には悔しいけど、まだ及ばないの、この世界では。だけどひとつ分かったのは、あなたがその在り処を知っているということ。あなたの記憶の中に、ソレは在る。
──うらら…ヘレンがあなたに託した、銀の靴は何処…?」