その言葉にうららは首を傾げた。
――名前を、うばわれた…?
「俺たち3人が気づいた時…誰ひとり、自分の名前が分からなかった。それは、何故だ?」
――自分の名前が、分からない? それはわたしみたいに、記憶がところどころ抜け落ちているのと同じようなことなんだろうか。
「あの、分からない、って…」
「そのまんまだよ。自分の名前を、思い出せないんだ」
おずおずと口を開いたうららに答えたのは、木陰に寝そべっていた栗色の髪の少年だった。
瞼は閉ざしたまま続ける。
「おれ達みんなおんなじガッコだから、それぞれの名前ぐらいは知ってる。有名なヤツも混じってるしね」
言いながらちらりと視線をその〝有名なひと〟に向け、またすぐにうららの方へと戻す。
その視線の先には金髪の少年と、メガネの少年。
「だけど自分だけじゃなく他人の中からも、その名前は切り取られたみたいに、無くなっちゃった。ここに来たのと同時に、奪われちゃったみたいに」
「お前も十分、有名人だがな」
付け足すように言ったメガネの少年の言葉に、栗色の髪の少年は反応を返さず欠伸をひとつ落としたかと思うと、またすぐに瞼を伏せてしまった。
つまりこの3人は、互いの素性はそれなりに知っているようだった。
ただ友好的な関係ではなかったことだけは、初対面のうららでも感じ取ることができた。
そんなうらら達に、北の魔女があくまでも温和な口調で答えた。
「それは、この世界で願いを叶える為の〝代償〟です。願いを叶えた時、もとの世界に戻るのと同時に名前はかえります。この世界での記憶と引き換えに」