「フザケんな…!」


ぴしゃりと、一番に口を開いたのは金髪の少年だった。
先ほどまでの柔らかな空気が、打って変わったように緊張を纏う。


「願いを叶えるだと…? そんなことこっちは望んでねぇよ…!」


金色の髪が春色の風に翻る。
隙間から覗く顔立ちは丹精だったけれど、眉間に刻まれた皺と緩むことのない口元が、すべてを恐ろしい印象へとかえていた。


「絵本の中だろうかドコだろうが、どうだっていいんだよ…! とにかくはやく、元の場所に、戻せ…!」


命令にも似た、強い口調。
憤りと怒りが滲み、まるで獣の威嚇のようだった。


「…元の世界に戻りたいのなら、偉大なる魔法使い・オズのもとに行きなさい。オズはどんな願いでも、叶えてくれるでしょう…そしてあなた達の願いが叶う時…元の世界へと帰れるでしょう」


北の魔女は笑みを崩さず、微笑みかける。
その様子に苛立ちを募らせたのか、尚も食って掛かろうとした金髪の少年を、メガネの少年が腕一歩で制した。


「俺も、願いとやらに心当たりは無い。だがまぁ、戻る方法がそれしか無いというのなら、仕方ない」


人差し指でメガネの淵を押さえながら、冷静に北の魔女を見据える。こちらも不機嫌を隠そうとする様子はない。金髪の少年とは違い、静かに不愉快を顕にしている。


「だがひとつ。名前を奪われたのは、何故だ?」