ずっと寝ていたソラが外の空気を吸いたいというので、周りで眠っている先輩達を起こさないよう気をつけながら、うらら達は小屋の外へと出る。

朝を迎える前の冷たく澄んだ空気が、濡れた頬にもずっと重たかった肺にも心地よい。

ブリキのきこりのこと、巨大な地下室のこと、久しぶりにメガネを外したこと…それから東の悪い、魔女のこと。

聞いてもらいたいことはたくさんあったのに、うららはなぜか言葉が上手く出てこなくて。
ただ黙って隣りを歩いていた時、ソラがゆっくりと口を開いた。


「うらら、今回は…なにか、思い出した?」


ソラの言葉にそういえば、と思い返す。
かかしの時は、むかし住んでいた家を─―ママとパパのことを、思い出した。

今回は──


「……どう、だろう…ずっと、必死だったから気付いてないだけなのかな…特に変わったことはない気がするけど…」


首を傾げるうららに、ソラは「そう」と薄く笑う。


「──あ、でも…青い、空が…」

「……空…?」


「うん…すごく高くて澄んでて雲ひとつない、まっさらな青い空をわたし、見上げていた気がする。周りの景色もなにもなくて…でもやけに空が、近く感じて…あんなに綺麗な空、見たこと無いから、思い出した記憶なのかな…」

「……そう」

「でも、アオ先輩の昔の話を少しだけ聞いたから、勝手に自分の記憶にしちゃってるだけかも」


言って照れ隠しのように笑ったうららに、ソラもいつものように優しく笑った。

それからうららをまっすぐ見つめ、いつものように自然な動作でうららの手をとる。
まだ少しつめたいソラの手。

そしてなんの前触れもなくソラは、その言葉を口にした。



「────好きだよ」