「……心、なんて。そんなにいいものには思えないがな。厄介なだけだ。心はすぐに迷うし、見失う」
『アオはまだ誰かを好きになったことが無いんだね。いいんだ、迷っても、見失っても。それは決して悪いことじゃない』
ギギ、とぎこちなく頭を動かして、ブリキのきこりがアオの顔を見つめた。
その瞳の奥には、光が宿っている。
空っぽだと思っていた空洞は、空ではなかった。
「…そうまでして、欲しいなら。オズに頼めばいいだろう。こんなデタラメな世界を統べる魔法使いだ、心ぐらい、くれるんじゃないか」
途方もない奇跡を待つよりは、よっぽど現実的に思えた。
まだぎこちなく、緩く零したアオの笑みに、ブリキのきこりも微笑んだようにみえた。
『そうだね、オズは偉大な魔法使いだから。だけどアオ、奇跡ならボクはもうもらったんだ。君が来てくれたから。君が見つけてくれたから。からっぽのはずのブリキの体が、いま、とても満たされている。アオ、これは君がくれたものだ』
瞬後、ブリキのその青い体が少しずつ光をまとい、錆び付いていた手足がゆっくりと動き出す。
それからまっすぐアオと向き合うように、対峙した。
隣りに居たうららも驚いたように目を丸くしてそれを見つめる。
『アオ、誰かを愛することを、おそれないで。君はとても、やさしい子だ』
ゆっくりと、ブリキのきこりがアオの手をとる。その手は温かく、確かな体温を感じた。
『そして、うらら…君もそう。やさしく、強い心を持ってる。きっと、受け止められるさ。君はひとりでは、ないのだから』
そして同じように空いているもう片方の手でうららの手をとり、アオの手にそっと重ねた。
『ここにある。いつだって、どんな時だって、心は確かにここにあるよ。それを、忘れないで。この先道は、険しくなる。東の魔女は君達の心を惑わすだろう。だけどきっと、大丈夫。確かなものはすべて、君たちの中に在るのだから』
まるで予言のような言葉を告げ、そうしてブリキのきこりの青い体が光を放った。
その輪郭が光の中に溶けていく。