『おかえり、アオ』
「………」
『さがしものは見つかった?』
「…まぁな」
『それはよかった』
幾分明るく聴こえるその声は、まるですべてを見ていたような口振りでなんとなく居心地が悪くなる。
それでも約束を果たすべくブリキのきこりの傍らに取ってきた油のカンをコトリと置き、シャツの裾を捲っていた時。
「アオ先輩…! わたしも手伝います」
背中からかけられた声に振り向くと、やはり制服のシャツの袖を捲り上げたうららが駆け寄ってきた。
アオはその申し出を受け、小屋から拝借した軍手に近い手袋をうららに渡す。
「油を、さすんですか?」
「そうだ」
ノズルのついた油さしでまずは頭と胴体を繋ぐ首の部分から、油をさしていく。
油を十分に馴染ませてから、間接をゆっくり動かしてやり、錆も丁寧に布で落として。
その作業をふたりで手分けしながら繰り返していると、ふいにブリキのきこりが口を開いた。
『ボクの話をしてもいいかい?』
アオではなくうららがはい、と返し、そしてブリキのきこりが話し出した。
『ボクも昔は、人間だったんだ。愛する恋人もいた。だけど東の悪い魔女がボク達の結婚を邪魔しようとボクの斧に呪いをかけ、ボクの手足は次々と手足を切り落とされてしまったんだ。幸いにも腕のいいブリキ職人に助けられ、腕も、足も、胴体も頭も、すべて綺麗に作ってくっつけてくれた。怒った魔女はさらに、ボクから心を奪った。ボクは彼女を愛せなくなり、彼女のもとを去った。そしてそれからずっとひとりでここで暮らしていた。
だけど夕立につかまり体が錆びて動けなくなりこうしている間、ずっと考えていたんだ。なにが一番、大切だったのかを。たくさんのものを失ったけれど、ボクは心を…彼女を失ったことがいちばんかなしい。
だからボクは、心を取り戻したい。そしてもし彼女がまだ待っていてくれるのなら、彼女を迎えに行きたい。…ずっとそう、願っていた』
そう話す口ぶりは、まるで希望の言葉ではなく、どこか諦めにも似た焦燥が混じっている気がした。
それでも願いを口にするのは、奇跡を信じているからなのだろうか。