ポッ



さっきまで紫色だった涼也の唇が、一瞬にして桃色の唇になった。


そして、今まで目を閉じていた涼也の目が、

パチッ…………………………って、開いた。
しかも何にも無かったかのような顔してる。

片手で私の耳にあててる受話器に向かって


『あっ、戻った。
戻りました……ぁ』


緊張の糸が切れたのか弱い声で言った。


『そうですか。もうそろそろ救急車が来ると思います。あとは救急隊員の指示に従って下さい。失礼します』


最初から最後まで私に丁寧に焦らず応対してくれた119番の担当の方、あの時は本当に有り難うございました。


私は礼を言って電話を切った。


ちょうど電話を切ったと同時くらいに、

『ピーポーピーポー』

救急車の音がうちに近付いて来る。


もう私に焦りは無かった。


だって今は涼也、いつもの涼也に戻ってる。

だけど情けないね。
症状が良いのと悪いのとじゃ、こんなにも気持ちの持ちようが違うとは。


我が子だから仕方ない事なのかな?


涼也が目を覚ましたのを、チョッ君も安心して泣きやんで、ニコニコしてる。

でも、きっと怖かったね。ずっと私の服を掴んでる。

怖い思いを、まだこんなに幼いチョッ君に………ゴメンね。

ママがうろたえて泣き叫ばなかったらチョッ君の怖さも軽減できただろうにね。
それに今回は助かったから良いものの、もし私の、うろたえのせいで手遅れになってしまってたら……と、反省した。