私の実家の民宿は、

最初から、

どこからどう見ても

きびしい状態にあることは
わかりきっていたけど、

亮祐さんの家の大きな旅館だって、
実際にはかなり切迫していた。


中で働いてみると
そのことがよく分かった。


収支がギリギリだということは、

亮祐さんだけじゃなくて、

ほかの仲居さんからも何度も聞いた。



亮祐さんの家の旅館は、
大きいだけに
維持管理がたいへんだし、

昔の大規模な増築や改修に費やした
お金の返済も
済んでいないようだったから、

かわいそうなくらい

亮祐さん一人が
働かなくてはいけなかった。

それも仕方のないことかもしれない。


亮祐さんは、そのことを、

口では辛いとか、
たいへんだとか

言っていたけれど、


もう嫌だとか、やめたいとか、

そういう決定的なことは
絶対に口にしなかったと思う。


家を継ぐため一生懸命働く。


そのことに、亮祐さんは

ぜんぶじゃないけれど、


充実していたんじゃないだろうか。