亮祐さんは、その頃、
東京の大学を休学して
実家の旅館の経営を勉強していた。
少し前に、亮祐さんのお父さんが、
倒れたからだ。
お父さんは、私たちの温泉街の
振興会の会長もやっていて、
そういう大事な人が、
いつ亡くなるか分からないような
重い病気にかかったから、
亮祐さんは大急ぎで、
老舗旅館の若旦那として必要なことを
学ばなければいけなかった。
「せめて卒業したいんだけど、
大学、どうなるかなあ」
そんなことを言いながら、
亮祐さんは、
見習い仲居である私に、
冷えたお茶を注いでくれたことがある。