姐御が言い掛けたその時、ふ…と大広間内に優しいピアノの音色が響いた。
「え…?」
「何…?一体何処から…」
唐突に聞こえてきたその音色は、ステージから離れた隅に置かれているグランドピアノからだった。
「あ、あの方もしかしてっ…」
ピアノを弾いている人物を見た瞬間、誰もが息を呑んだ。
中でも、たまたま近くに立っていた娘は呆然としていた。
「あ…、(あの人さっきの…)」
そう、ピアノを弾いている人物とは、正しくこの宮殿の王子だったのだ。
「げっ…!?王子っ…?
何であんな所に…つーかいつ来たんだ…?」
当然の如く執事と姐御は驚くしかなかった。
……それ以前に、大広間内は王子が当然現れた事よりも、美しいピアノの音色に聞き惚れていた。
「素敵…。何て澄んだ音色…」
「まるで、心まで響くようだわ…。」
皆、口々にそう呟く。
━━━曲名“モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調”…。
見とれる程の整った顔立ちの王子が、高く澄んだメロディーを奏でて周りを魅了させる。
(━━━……)
娘もただその音色に聴き入っていた。