……すると、ふ…と何気なく宮殿の敷地を大きく取り囲む外壁に目を向ける。
(あれ…?)
外壁のてっぺんに人影が見えた。誰かいるのだ。
(誰だろう…。あんな所で…)
そこで、暗くて分かりづらいが外壁のてっぺんにいる人物が着ている緋色のタキシードが目に映った。
(あ…。
あのタキシード…もしかして、昼間の…?)
漸く外壁のてっぺんの人物が森で擦れ違った青年だと気づく。
しかし、凸凹の外壁に背を預けて空を見上げている事は分かるが、辺りが暗くてはっきりとは分からなかった。
(よく分からないけど…
動かないから寝てるのかな…?
落ちたら、危ないよね…
寝てるんなら、起こした方が良いかな…。)
声を掛けるかどうか躊躇っていると、突然目の前に強い突風が吹いた。
━━━ビュォォォォー…ッ…
「わわっ…」
娘は咄嗟に目を閉じる。
すると、突然吹いた突風の御蔭で、たまたま月を覆っていた雲が遠退いたのだ。
(あ…、月が…)
満月が露になり、辺りがその光で照らされる。