口を開けっ放しで目をキラキラさせる。
そんなわたしたちをニコニコしながら見下ろした葵ねぇに。
「お腹空いた?」
の一言に、わたしたちは首を思い切り縦に振った。
慣れた足取りで、葵ねぇはわたしたちの手を引き、札幌の街の中を歩き出した。
とある、ビルの1階の前で。
「ここにしようか?」
と、葵ねぇは立ち止まる。
わたしも日夏も困惑した顔で、頷いた。
英字が書きなぐられた黒い看板に、黒いピカピカしたテーブルに。
ツルツルした床に葵ねぇの靴音が、コツコツ響く。
汚れを知らない大きな窓ガラス。
「お客様は3名でいらっしゃいますか?ご案内致します。こちらへどうぞ」
白いシャツには蝶ネクタイ、黒いベスト。同じ黒いズボンで現れた男の人に。
通された窓際の席からは、スタスタ歩く女の人や、早起きして通り過ぎた男の人。携帯電話で話しながらキョロキョロする人が映し出される。