「待てってっ」
キコキコキコキコ響かせながら、咲之助があっという間に追いついてくる。
カーディガンで2/3ぐらいが隠れていた手を、後ろから伸びてきた冷たい手にぐいっと引っ張られた。
冷たさにびっくりして咄嗟に振り向く。
雨に濡れた髪がへばりついている顔がすぐ近くにあった。
「お前、片方靴履いてねーだろ」
「あ」と言って、自分の足元に視線を落とす。
咲之助が部活を早帰りしたのを聞き、履かずに外に飛び出した場面がよみがえってくる。
「ったく、なにやってんだよ」
咲之助は肩に掛けていたスポーツバッグからタオルでぐるぐる巻きの物体を取り出す。
くるんくるんとタオルをほどいていくと、あたしの革の靴のかたわれが現れた。
咲之助は少し屈んでそれをあたしの足元に置いた。
「お前が帰って来ないっておばさんから電話があって、また学校まで行ったんだからな」
少しばかり大きくなった雨粒に打たれ、傘をさしてない咲之助の髪から水滴が滴り始めた。