「じゃぁ、まあいいや、それで」
「なにが」
イラ立ちぎみに咲之助を見上げると、咲之助はいきなり歩くのをやめた。
そして手を繋いだまま向き合う。
「ずっとそばにいてください、ディア マイ ファーストラバー。大好きですんで。」
改めて何を言うかと思えば、カッコのつかない台詞を真剣に言われた。
「英語で言えばなんでもカッコよく聞こえるってものではないと思う。」
「うるせっ」
あったかいところからいきなり寒い風に当たったからなのか、咲之助の頬が赤く染まっていた。
「ディア マイ ファーストラバー」
顔を背けてしまった咲之助の横顔に、もう一度それを吹き掛けるように言ってみる。
「んだよ。からかうなよ。」
「分かった。もう二度と言わない。」
「もう二度とはちょっと寂しい。」
「わがままだね。あたしもだけど。」
「うん、知ってる。」
雪はしんしんと降り積もる。
さっきより量を増した雪の粒たちは、繋いでるあたしたちの手にもいっぱい降ってきて。
その度に、君の手はじんわりと雪を溶かしていく。
それを見てると思うんだ。
冷たい手なんかじゃないねって。
口に出そうかとも思ったけど、たぶん返ってくる答えは決まってる。
「ねえ、サク、好きだよ。」
「うん、知ってる。」
頑固で、譲り合いの精神に欠けていて、まだまだ大人には程遠いあたしたち。
そんなあたしと君にぴったりな呼び名を付けたよ。
あたしは君の、
君はあたしの、
"大人になれないファーストラバー"と。
-END-