涙を服の袖でゴシゴシ拭いて、垂れてきそうだった鼻水を天井を仰いですすった。
それから、入るなら今だと思い、何気ない顔を装ってドアを開け放った。
「あ、蕾おかえりい」
「遅かったな」
「まあね」
あんな会話の後なのに、咲之助と観月の態度が全然不自然じゃなくて、自分だけが妙に浮いてる気がした。
「観月」
いつもの無表情を顔に張り付けて、泣いた後で震えそうになる声に気をつけながら、先ほど受け取った写真を観月に差し出した。
「ん、何これ」
「さっき地味なカメラマンに会って、渡してくれって」
「え、さっき?」
「うん」
「え、でも、あいつ3日前に死…」
「え…?」
観月は一瞬強ばった表情を次の瞬間には緩めて笑った。
「ううん、なんでもない。あいつなんか言ってた?」
その観月の様子と、途中まで言いかけた言葉とで、なんとなく分かった。
「うん、言ってたよ。」
あたしは観月にふわっと抱きついて。そして言った。
「観月のこと、大好きだって。」
地味なカメラマンの存在を知らない咲之助は、事態が飲み込めないようで。
観月から離れて咲之助の顔を見ると、眉間にシワを寄せて複雑そうな表情をしていた。