道路の上に一人残され、通り掛かった車にクラクションを鳴らされ、取りあえず佐伯の家の門の前に避難した。
さっきまでは淡くだった陽の光が、もう少し強く輝き出していた。
鳥のさえずりが頭上から聞こえてくる。見上げると、上の電線に雀が数羽とまっていた。
それと、時折駅の方から微かに電車の音が聞こえるくらいで、後はほとんど静かな住宅街だ。
頭上の雀に糞をされやしないかと、常に上の様子を伺っていると。
住宅街の静寂に亀裂が入った。
バタバタと言う足音が佐伯の家の中から聞こえると、背後でバタンと言う音がした。
その音に雀が一斉に飛び立ち、俺は驚いて後ろを振り向いた。
「サクっ」
「え」
蕾が玄関から走り寄って来て、背中に抱きついてきた。
「サク、あたし生理になったっ」
「せ、せいり?」
一瞬こそ戸惑ったものの、すぐにその意味が理解できた。
「じゃぁ、蕾…」
「うん、あたし赤ちゃん産めるようになったよっ」
赤ちゃんが産めることももちろん嬉しかったが、今は先のことよりも蕾の喜んでいる顔が単純に嬉しかった。