「あのさ、もうここにいないであの子のとこ行ってあげなよ」
カバンからハンカチを取り出して、化粧に気をつかいながらそっと涙を拭う佐伯。
「おう」
と、そうとだけ答えた。
一瞬「もう平気?」なんて聞きそうになったが、聞かないほうがいいと思い直した。
そうして、一緒に佐伯を追いかけることはしなかった蕾のほうを振り返った。
道の向こうで待っている小さな姿を想像して。
「…蕾」
が、振り返った先に見えたのは、しゃがみこむ蕾の姿だった。
「蕾っ」
一瞬空と地面の方向が分からなくなるくらい頭が真っ白になったが、無意識のうちに走り出していた。
これからようやくまた二人で一緒にいられるのに。
情けないほど取り乱して、コケそうになって脱げた靴にも構わずに蕾に駆け寄った。